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キャッチボール

私と父さんは、偶然にも誕生日がいっしょだ。だから、星座占いの結果は同じはずなのに、どうしてこんなにも違っちゃったんだろう?
野球少年だった良和少年が、マネージャだった真由美さんと結婚したのが、今から21年前。郊外の小さな公営住宅で、慎ましく暮らし始めた夫婦は、翌年息子を授かった。父さんは、その息子が強くたくましく育つことを願い、強志と名付け、いっしょにキャッチボールをすることを夢見たのだそうだ。
確かに私には、小学校低学年まで、父さんとキャッチボールをした記憶がある。でも、それは長くは続かなかった。
私はね。外で遊ぶより、家でお人形遊びがしたい。そんな女の子になりたい男の子だったんです。
そりゃあ、私だって小さな頭で一所懸命考えて悩んだよ。どうして私は、オカマって言われていじめられるの? 可愛いスカートはきたいよ。髪も綺麗に伸ばしたいな。そんな日々大きくなる悩みを、さんざ迷った挙句母さんに打ち明けた。母さんは、大きなため息をついて、父さんになんて言えばいいのよ、と言った。娘ができて、大喜び……なんてマンガのようにはいかないものね。
それから少しずつ、男の領域を狭めるように陣取り合戦をした結果、すっかり女の子の装いをするようになれたのは、13歳の頃。父さんは、当時まだ40代になったばかりなのに、すっかり白髪だらけ。私との会話もほとんど無くなってしまった。
私のせいなのは、わかってる。わかってるけど、自分にも両親にもウソをつくのは嫌だった。自慢じゃないけど、私はまっすぐに育ててもらった。こんな私だというのに、いや、だからこそなのか、人として恥ずかしくない振る舞いができるようにと、人一倍気をつかって育ててもらった。
感謝してもしきれない。だから私も頑張った。
世間様が何のその。いじめるやつらを見返してやるぞと、オシャレに勉強に頑張ったよ。
「強くたくましく」は、別に男の子だけの特権じゃない。いや、私は綺麗で可愛い女の子になりたいと願う男の子だったけど、「強くたくましく」なることと矛盾しないよね?
その、私こと、強志少年は、本日ハタチの誕生日を迎えます。化粧もうまくなった。ミニスカートだってはきこなすぞ。履歴書に女って書いて、偽名使って、どきどきしながら面接をした書店のバイト。貯めたお金で、ちょっと大人っぽいスーツも買ったよ。
三人家族のうち、二人の誕生日が一致する今日は、恒例のささやかなパーティ。父さんからのプレゼントは毎年何も無かった。たぶん、それが父親としての最後の意地だったのだろう。
ハタチの記念にビールで乾杯。私は父さんに、Yシャツを贈る。毎年代わり映えしないけれど、と言いながら。悪いなとぶっきらぼうに答えて、父さんの目は細くなる。ただでさえ細い目がいっそう細くなる。喜んでくれたことが、それでわかる。ふと、父さんは決意したように立ち上がり、隠してあったらしい紙袋を無造作に私に寄越した。
え?
私は驚いて父さんの顔を見る。母さんも知らなかったみたいで、丸い目の驚き顔だ。照れくさいらしい父さんは、ぐっとビールを煽ってる。私はあけていい? と聞きながら紙袋から中身を取り出した。出てきたのは、シンプルだけど、ちょっとシックなワンピースだった。
ウソ。本当に?
私は声に出して、そう言っていた。今まで無言で許してくれていた父さんが、ついに背中を押してくれた。私はそう思った。そして、私はワンピースを広げてみようとして、その重さに首をかしげる。よく見れば、もう一つ包みが入っていた。ハテナマークで頭上をいっぱいにして、私はそれも広げてみた。
グローブ。もう一つの包みの中身は、野球のグローブだった。父さんは、言った。
「お前ももうハタチだ。どうせなら、いい女になれ。強く、たくましく、いい女になれ。ただ、父さんのコドモだってことは……、忘れるな。」
私は、ありがとうお父さん! と叫んで、両方の包みを抱えて、部屋に走る。ワンピースのサイズはぴったりだった。そして、グローブのサイズも。
今日ハタチを迎える、ワンピースの似合う、少年だった私は、涙をぽろぽろこぼしながら食卓に戻り、左手にはめたグローブをぱんぱんと叩いた。父さんは笑いながら「両方、似合うな。」と言った。
ありがとうお父さん。そして、にこにこ涙ぐんでいるお母さん。
これからも、強くたくましく、生きてやるぜ!

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Comments

今日の1782文字。
いや、実は随分昔に書いたもの。原稿用紙ぎりぎり5枚に無理やり収めちゃったがために、滅裂。
長尺で書き直そうとか思ったけど、どうせやるなら、ゼロから書いたほうがよさそう。
このテーマは私にとって永遠だしな。

はーい,校正情報だよーん(をい)
ビールは「煽り」ません(笑)「呷り」ます.
いぢょ,謎の編集担当でした^^;

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