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« まちのふうけい 15 | Main | トランス系時事ネタ(2004/05/18) »

カエルマーチで行こう! 【5】

好きなものが増えていくと、それに対するアンテナが敏感になる。
そして、関連する雑誌が部屋に増えたり、パソコン画面左端の「お気に入り」が増えたりする。それはごくごくアタリマエのことであって、なんら不思議なことではない。だから私の部屋に、クルマの雑誌が増えることに、おかしな点は無いのだ。
「それはそうだけど。」と、サチエは言う。そして、こう続ける。「限度ってものを知りなさいよ。」
もちろん私だって、普通のオンナとして今まで生きてきたわけで、数々の女性向け雑誌を私の部屋に迎え入れ、研究材料にしてみたり、なんとなくぱらぱらとめくってみたり、時にはお気に入りのタレントのグラビアを切り抜いて保存したりしてきた。それは今でも変わることは無く、「JJ」が、「Style」に変わった程度だ。
それに加えて、ちょっとだけクルマの雑誌が増えただけじゃない。サチエったら、それを大げさに。
「いやー。普通にdriverとか、じゃなくて、いきなりNostalgic Heroとか、OLD-TIMERとか読み始めたら、やっぱり気になるじゃないよ。」
だって、可愛いじゃないかー。と、ハンロンすると、私の可愛い車好きを知っているが故に少々トーンダウンしつつも、「ま。ね。前のてんとう虫やビートルは確かに可愛かった。でも、ああいう車にウツツを抜かしちゃったら、それこそ生活の大半を注がないとやってられないでしょう。実際大変だったようにさ。」と、親身になって私に「警告」した。
「わかってるよ。今の私はカエルマーチに夢中。それ以外の車に浮気することは有り得ないんだけれどね。実際には買えないからこそ、雑誌で代用しているみたいなもの。」と言えば、サチエは薄ら笑いを浮かべて、「いいけど、それって、えっちな雑誌を読んでいるオトコとおんなじ理論よね。」と抜かした。当然、裏拳を一発お見舞いする。

ゆったりとした休日の昼下がり。冷めた紅茶を入れなおそうかどうか迷っていたときに、部屋の隅に積み上げられた雑誌に、付箋が貼られていることを、サチエに気づかれてしまった。「何? これ」と言って、サチエは本を取り上げる。私は、抗議をしようにも、何と言ってやめさせたらいいのか、ちっとも言葉が浮かんでこなくて、あ、とか、う、とか変な声を出した。

古い車ばかりが載った雑誌の、モノクロページ。写真数点と、長ったらしい文章。車とそのカタログを掲載して、少々の薀蓄と、思い出話を語っているだけだ。取り立てて凄いことが書いてあるわけでもない。サチエの、興味津々だった顔は、だんだんつまらなそうな顔に変化していく。
「何で、こんな記事に。」と、口には出していなかったけれど、そう思っているのは明らかだった。ふーん、と、感心なさそうに、雑誌を閉じようとした瞬間。サチエの目が見開いた。ちっ。
「これ書いてる、五十嵐ユウスケ って、あんたのお兄さんじゃない。」
そうだよー。悪いかよー。と、私はふてくされた子供のように言う。別に隠し立てする気があったわけではないけれど、あまり知られたくなかったのも事実。
「へー、こんな仕事してるんだ。まさに、天職じゃない。」
「そ、ね。」
まったくだ。古い車好きが高じて、いつの間にか会社辞めて、自動車整備技師の資格とかとって、雑誌に連載まで持っちゃって。
良いご身分ね、と皮肉の一つも言ってやりたいが、別になんら悪いことをしているでもないし、誰かに迷惑をかけているでもない。結局、順調に自分のやりたいことを進めていく兄貴が羨ましいだけだ。

「あれ? 何、サギリとお兄さんって、喧嘩でもしてるの?」
とサチエは、ちょっと不機嫌になった私にたずねる。「うーん。」と私はうなる。決してそういうわけではない。どちらかといえば、仲はよいほうだ。
免許をとったばかりの私に、スバル360なんて「難しい車」を薦めたのは兄貴だけれど、ちゃんとそれに付随した、車の運転方法も私に叩き込んでくれたのだし。
おかげさまで私はいま、狭い駐車場に駐車するのも苦ではないし、他の車にクラクションを鳴らされるようなこともない。多少の不具合ならば、原因がわかって、さすがに自分で修理はできないけれど、整備工場に端的に状況を説明できたりする。ありがたいことである。

ただ、ある時から、連絡をとりづらくなってしまったのは事実なのだ。
それは、兄貴が突然会社をやめ、これまた突然、何でまたというくらい年上の2コブつきのバツ1と結婚なんぞしたときから、だと思う。
別に兄貴がどんな人と結婚しようが構わないし、私が文句を言う筋合いも無い。その上、母のほうにむしろ年齢の近い、嫁、マミコさんとやらも、よくできた人格者で、2コブのアヤカとマナミも、まあ、実に可愛い。だけれど。とにかく、理由も無く、気に入らないのだ。
そういう話を、実は今始めてサチエにした。するとサチエは、なーんだ、という顔をしながら、「そりゃあ、サギリ。嫉妬でしかないわ。」などとあっさり言いやがった。
「…やっぱり、そうなのかなあ。」と私は認めたくないので、不満たらたら、口を最大級に尖らせて言う。
「なに、サギリ。あんた本当に気づいて無かったんじゃないでしょうね?」と、サチエは呆れ顔だ。当然私は愚痴愚痴と言う。「え、だって、そんなに兄貴べったりだったわけじゃないし……。」とまで言ったところで、サチエは私のセリフをさえぎってまで言った。
「サギリの今まで付き合ってきたオトコ。ぜーんぶ、お兄さんに似てると思うのは、私だけじゃないと思うけどな。」

赤くなって、熱くなって、カッとなって、でも言葉にならなくて、言いくるめられて、頭が冷えて、喉が乾いたところで、ようやく私は、サチエに言った。
「……その通りですぅ。」
バカみたいな話である。気づいてはいたことなんですけれど。
「電話ぐらいしたら?」とサチエは穏やかに言う。うん、と子供のように私はうなずいた。

結局それから四日経っても、仕事が忙しかったり、なんだかんだと理由をつけて電話をするのを引き伸ばしてしまった。五日目、ちょうど兄貴が書いている雑誌が発売日を迎え、いつものように私はその本を買ってきた。よし、記事見たよーとさりげない感じでかけてみよう。と、私はちょっと鼻息荒く、ページを繰った。
いつもの兄貴節。偶然取り上げている車がフォルクスワーゲンビートルであることに、ちょっと暗示的なものを感じて、また、鼻息が荒くなる。独特のエンジン音と、フロントのトランクが好きだったなあ、なんて思い出しつつ、兄貴の冷静な分析と車の持つ歴史的背景に感心していた。
ところが、本文のラスト近くで、私は息を飲んだ。
こんなことが書いてあったからだ。

「……ところで、このビートル。私の妹が、ついこのあいだまで乗っていた。最終的に坂道の途中で動かなくなり、レッカーを呼び、涙ながらに見送った妹は、頭の中にドナドナが聞こえたなどと言っていたが、その悲しみは私にもよくわかる。その後新型マーチを愛でているようで何よりだ。最近ちょっと連絡が来なくて寂しいぞ、兄は(笑) たまには家にも遊びにおいで。今なら、ガレージに、てんとう虫も一台いるぞ。」

仕方がないなあ。と、私は本を閉じ、緩んだ頬と涙腺を手で撫でながら受話器を取った。

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「連載小説」カテゴリの記事

Comments

……長すぎた。スイマセン。m(_ _)m

長すぎませんよー 分量あってよかったです。
あと兄ネタには弱いわたしです(ブラコン?)。ほろり。

わあい。ちちやす、こないだも今回も、コメントありがとう~
励みになるのです。はげはげ♪

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